原状回復でお悩みの不動産オーナーの方へ

1 賃借人の原状回復義務について

昨今、賃貸借を終了する際の原状回復の負担、費用について、オーナーと賃借人との間でトラブルに発展するケースが多くあります。

一般的に、契約書では、賃借人に原状回復義務があることが明示されているのではないかと思いますが、民法においても、賃貸借契約が終了した場合、賃借人の目的物返還義務と附属物収去権が定められており(民法616条・597条1項・598条)、賃借人は、賃貸の目的物を原状に回復して、賃貸人に返還しなければ、ならないと考えられています。

すなわち、賃借人に原状回復があると考えられています。

 

2 経年劣化や通常損耗の補修については、賃借人の原状回復義務に含まれるか。

それでは、賃借人に原状回復義務があるといっても、経年劣化や、通常の使用によって生じる破損や汚損(以下「通常損耗」といいます。)についても、賃借人が補修費用を負うのでしょうか。

この点については、経年劣化や、通常損耗については、賃貸借契約の性質上、当然に生じるものであり、これらの補修費用は、毎月の賃料に含まれると考えられており、別途、補修費用を支払う必要はないと考えられています。

契約終了時にも、敷金から、経年劣化や通常損耗の補修費用を差し引くことはできないことになります。

 

3 通常損耗についての原状回復義務を賃借人に負わせる旨の特約は、有効か。

上記のとおり、原則として、通常損耗についての原状回復義務がオーナー側にあるとしても、別途、オーナーと賃借人の間で、通常損耗の補修費用を賃借人が負担する旨の特約(以下「通常損耗補修特約」といいます。)を締結することは可能です。

実際上、事業用賃貸借の取引においても、通常損耗の補修義務を賃借人が負担する旨の内容の契約を締結しているケースは、多くあります。

ただし、通常損耗補修特約については、最高裁判所平成17年12月16日の判決においては、「賃貸借契約においては、通常損耗についての原状回復義務を建物賃借人に負わせる旨の特約は、賃借人が費用負担をすべき通常損耗の範囲が契約書に明記されているか、賃貸人が口頭で説明し賃借人がそれを明確に認識して合意内容としたと認められるなど、明確に合意されていることが必要である。」と判示されています。

従って、賃借人が費用負担しなければならない通常損耗の範囲が明確になっていない場合には、特約が無効となっていまい、原則どおりオーナー負担となります。

オーナーの方にとっては、契約締結の際、賃借人の費用負担の範囲を契約書や重要事項説明書等で示し、賃借人の負担意思も明確にさせる必要があります。

 

4 居住用不動産の場合

さらに、居住用不動産の賃貸借の場合、通常損耗補修特約は、別途、消費者契約法の適用を受ける場合があり、また、国土交通省住宅局が発行する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の適用対象ともなるため、別途、留意が必要です。

通常損耗補修特約の内容によっては、消費者契約法10条、公序良俗(民法90条)に違反して、契約が無効となるケースがあります。

cf 消費者契約法10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反して、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

 

5 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

国土交通省住宅局が発行する民間賃貸住宅の賃貸借契約に関するガイドラインで、近似の裁判例や取引等の実務を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方等について、トラブルの未然防止の観点から、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとしてまとめたものです。平成10年3月に公表されていますが、その後、平成16年、平成23年に改訂がなされています。

なお、当該ガイドラインには、法的拘束力はありません。

 

6 民法改正と原状回復義務

改正民法が平成29年5月28日に国会で成立し、2020年を目途に施行される予定です。

改正民法では、これまでの裁判例や、上記ガイドラインを明文化しており、「通常の使用や収益によって生じた貸借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を原状回復義務の範囲から明確に除外しました(改正民法621条)。

ただし、改正民法下においても、上記のとおり、一定の要件のもとで、通常損耗についての原状回復義務を賃借人負担とすること(通常損耗補修特約)は可能と考えられます。

オーナー側において、原状回復義務の範囲や賃借人の意思を明確にする努力が必要となります。

賃貸借終了時の原状回復について、お悩みの方は、お気軽に弊事務所までお問合せ頂けますと幸いです。

 

お問い合わせ

ページの上部へ戻る