労災保険給付の申請をお考えの方へ

1 労災保険とは

  労働者が、稼働時間中に事故が発生し、労働者が損害を被った場合、労災保険の申請をしようということが、よくあります。

いわゆる労災の正式名称は、労働者災害補償保険といい、政府が管掌しているものです(労働者災害補償保険法2条。以下「労災法」)。

そして、労災保険については、労働者を使用する全事業が適用対象となっています(労災法3条1項)。ただし、国の直営事業及び官公署の事業については、適用がありません(同条2項)。

 

労災保険関係は、事業が開始された日に、自動的に成立することになります(労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条)。

仮に、事業主が保険関係成立の届出や保険料の納付を怠っていたとしても、労災保険関係の成立には影響を及ぼさず、労働事故が生じた場合に、補償の対象となり得るものです。

 

2 いかなる場合に、労災保険は給付されるのか

この点、労災保険は、労働者に生じた負傷、疾病、障害、死亡といった災害が「業務上」発生したと認められた場合に、給付されることと規定されています(労災法7条)。

  どのような事情をもって、「業務上」の災害といえるのかが問題となりますが、「業務上」の意味については、労災法上、定義されていないため、解釈に委ねられています。

  そして、解釈上は、「業務遂行性」(労働者が事業主の支配ないし管理下にあること)を前提として、「業務起因性」(業務または業務行為を含めて労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められること)があることが必要とされています。

 

3 どのような保険給付がなされるか

「業務遂行性」と「業務起因性」が認められ、労災が適用される場合の保険給付の主な内容は、以下の2つに分けられます。

  • 業務災害に関する保険給付
  • 通勤災害に関する保険給付

なお、労災保険給付の受給権者は、社会復帰促進等事業の一環として、特別支給金の給付を受けることができます(労災法29条)。

 

業務災害に関する保険給付の種類と内容は、以下のとおりです(労災法12条の8から、20条)。

 

(1)療養補償給付(労災法12条の8・1項1号)

   業務上の負傷又は疾病に対してなされる給付です。

具体的には、労災病院や労災指定医療機関等において、無料で療養を受けることができます。

   場合によっては、上記機関以外での療養についても、費用の支給が受けられます。

 (2)休業補償給付(2号)

休業日の4日目以降から、1日につき、給付基礎日額の60%相当額が支給されるものです(なお、最初の3日間は、事業主が労働基準法上の休業補償を行うことになります。)。

社会復帰促進等事業の一環として、休業4日目から、1日給付基礎日額の20%相当額が、休業特別支給金として上乗せ支給されます。

 (3)障害補償給付(3号)

傷病が治った(症状が固定した)にも関わらず、障害が残った場合に支給されるものです。

また、社会復帰促進等事業の一環として、障害特別支給金等が支給されます。

 (4)遺族補償給付(4号)

   業務上の事故により、労働者が死亡した場合に、遺族に対して支給されるものです。

   また、社会復帰促進等事業の一環として、遺族特別支給金等が支給されます。

 (5)葬祭料(5号)

業務上の事故により、労働者が死亡した場合、葬祭費用が遺族に対して、支給されます。

 (6)傷病補償年金(6号)

療養補償給付を受けている者が、療養開始後、1年と6ヶ月を経過しても治らず、疾病の程度が一定の障害の程度にある場合に支給されます。

また、社会復帰促進等事業の一環として、傷病特別支給金等が支給されます。

 (7)介護補償給付(7号)

障害補償年金、傷病補償年金の受給権者が、常時又は随時常時介護を要する状態にあり、かつ、介護を受けている場合に支給されるものです。

 (8)労災就学等援護費

   社会復帰促進等事業の一環として、就学援護費が支給されることがあります。

 (9)労災就労保育援護費

社会復帰促進等事業の一環として、就労保育援護費が支給されることがあります。

 

  • なお、通勤災害の場合は、上記の「補償」の文言が欠ける点のみ、業務災害の場合と異なります(労災法21条から25条)。

 

4 保険給付の申請権者と提出先

(1)労災保険給付の申請をすることができる者は、被災者である本人か、または、本人が亡くなった場合の遺族です。

(2)保険給付請求書の提出先は、所轄の労働基準監督署となります。

ただし、療養補償給付について、労災病院等で治療を受ける場合には、病院からの実際の治療等をもって、療養補償給付の内容となります。従って、保険給付請求書の提出先は、病院です(病院を通じて、労働基準監督署に提出されることになります。)。

 

5 期間制限には、要注意です。

(1)2年間で時効消滅するもの

療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付(労災法42条)

 (2)5年間で時効消滅するもの

障害補償給付、遺族補償給付(労災法42条)。

(3)起算点

なお、時効の起算点については、それぞれの保険給付の支給事由が生じたときから、起算されます。

 

6 労災保険給付と他の法律との関係

労働基準法上の災害補償の事由について、労災保険給付が行われるべき場合には、使用者は、労働基準法上の災害補償の責任を免れることになっています(労働基準法84条1項)。

なお、労働基準法上の災害補償を行った場合においては、同一の事由については、その価額の限度において、民法による損害賠償責任を免れるものとされています(労働基準法84条2項)。

 

労災保険給付に関し、お悩みの方は、お気軽にお問合せください。

ページの上部へ戻る