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賃貸借終了時の保証金の取り扱い

2016-08-08

1 居住用建物の賃貸借契約の終了時、敷金の性質を有する保証金から一定金額を控除し、これを賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約は、消費者(賃借人)にとって不利益であり、消費者契約法10条により、無効となるのでしょうか。

(参考)消費者契約法10条

「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反して、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

2 この点については、平成23年3月24日最高裁判所第一小法廷判決が、次のような判示基準を示しています。

「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」

そして、本事案では、敷引金の金額が契約の経過年数に応じ、月額賃料の2倍弱ないし3.5倍強にとどまり、更新料1か月分を除いて、礼金等の一時金を支払う義務を負っていない事情のもとでは、敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、消費者契約法10条により無効であるということはできないと判断しました。

3 また、平成23年7月12日最高裁判所第三小法廷判決も、賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め、賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結をしており、敷引金の金額が月額賃料の3.5倍程度にとどまっている事情のもとでは、敷引特約は、消費者契約法10条により無効であるということはできないと判断しています。

4 他方で、敷金50万円から無条件に40万円を控除する旨を定める敷引特約について、月額賃料の3カ月分を超える部分については、消費者契約法10条により無効となるとした事例もあります(西宮簡易裁判所平成23年8月2日判決)。

5 上記、敷引特約に関する最高裁判所の判決の趣旨からすると、敷引特約が有効となるか否か判断するにあたっては、①賃借人が特約の内容を認識しているか否か(契約書への明確な記載、賃貸人からの説明等)、②敷引額の金額(最高裁は3.5カ月程度を許容しています。)、③賃料の金額、④敷引金以外の一時金(礼金等)を賃借人が負担しているか等がポイントとなります。

  敷引特約を締結するにあたっては、これらのポイントを十分に意識することが大切です。

  馬渕総合法律事務所  弁護士 馬渕裕二